東京高等裁判所 昭和63年(行コ)20号 判決 1990年2月07日
東京都新宿区西新宿八丁目四番五号
昭和六三年(行コ)第二〇号事件控訴人
同第二一号事件被控訴人
一審原告
三洋石油株式会社
(以下「一審原告」という。)
右代表者取締役
笠井麗資
右訴訟代理人弁護士
新津貞子
東京都新宿区北新宿一丁目一九番三号
昭和六三年(行コ)第二〇号事件被控訴人
同第二一号事件控訴人
一審被告
四谷税務署長事務承継者
(以下「一審被告」という。)
新宿税務署長
河村修司
右指定代理人
萩原秀紀
同
石黒邦夫
同
塚本博之
同
干場浩平
主文
一 一審被告の本件控訴に基づき、原判決中、一審被告敗訴の部分を取り消す。
二 右取消しに係る一審原告の請求を棄却する。
三 一審原告の本件控訴を棄却する。
四 訴訟費用は、第一、第二審とも、一審原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
(昭和六三年(行コ)第二〇号事件)
一 控訴の趣旨(一審原告)
1 原判決を次のとおり変更する。
四谷税務署長が一審原告に対し昭和四八年四月一四日付けでした、次の各処分を取り消す。
(一) 法人税の青色申告の承認を昭和四三年九月一日から昭和四四年八月三一日までの事業年度(以下「四四事業年度」という。)以後取り消す処分(以下「本件取消処分」という。)
(二) 一審原告の四四事業年度の法人税の更正(所得金額九二万六七五一円を超える部分)及び重加算税賦課決定のうち、国税不服審判所長が昭和五二年五月九日付けでした審査裁決により取り消された部分を除く、その余の部分(以下、右更正を「本件四四事業年度更正」と、右重加算税賦課決定を「本件重加算税賦課決定」と、右両者を併せて「本件四四事業年度更正等」という。)
(三) 一審原告の昭和四四年九月一日から昭和四五年八月三一日までの事業年度(以下「四五事業年度」という。)の法人税の更正(所得金額七四八万五一六〇円を超える部分)及び過少申告加算税賦課決定(以下、右更正及び賦課決定を「本件四五事業年度更正等」といい、これと本件四四事業年度更正等とを併せて「本件更正等」という。)
(四) 昭和四四年四月分源泉徴収に係る所得税の納税告知及び不納付加算税賦課決定(以下「本件納税告知等」という。)
2 訴訟費用は、第一、第二審とも、一審被告の負担とする。
二 控訴の趣旨に対する答弁(一審被告)
本件控訴を棄却する。
(同第二一号事件)
一 控訴の趣旨(一審被告)
1 原判決中、一審被告敗訴の部分を取り消す。
2 右取消しにかかる一審原告の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、第一、第二審とも、一審原告の負担とする。
二 控訴の趣旨に対する答弁(一審原告)
本件控訴を棄却する。
第二当事者の主張及び証拠関係
当事者双方の主張及び証拠関係は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決九丁裏七行目の「後記三2」の次に「(二)」を、同一八丁表五行目の末尾に続けて「なお、右手形は、一審原告自身が従前から行つてきた簿外による手形割引等の金融取引により取得したものであつて、右金融取引により生じた利益の額を隠ぺいするため、一審原告代表者から借入金名義で公表帳簿に受け入れたものである。」をそれぞれ加える。
二 原判決添付別紙八の「出金明細表」の右横に「符号説明 あ 不渡取消額、無印 貸付資金額」を加え、同表の年月日「44・12・12」の欄の金額「735,066」を「735,065」と改める。
三 原判決三二丁表九行目の「本件」の次に「原、当審」を加える。
理由
一 当裁判所の本件に関する事実認定及び判断は、次のとおり付加、訂正及び削除するほかは、原判決理由説示第一ないし第七のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決三四丁裏一〇行目の「原本が存在しかつ」を削り、同末行の「三」の次に「(同証言により原本の存在も認められる。)を加え、同三五丁表三行目及び同裏五行目の「山岡」をいずれも「山國」と改める。
2 原判決四二丁表一〇行目の「根拠となるものである」の次に「(証人須田治昌の証言及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第五七号証もこの判断を左右するに足りない。)」を加える。
3 原判決四七丁表八行目の「(二)(2)記載」を「(二)(1)、(2)記載」と改める。
4 原判決五〇丁表九行目の「本件各当座預金の」を「本件各当座預金を」と改める。
5 原判決七一丁表末行の冒頭から七四丁表一行目の末尾までを次のとおり改める。
「(2) 一審原告代表者からの手形による借入金名義の貸付金
原本の存在及び成立ともに争いのない乙第二一号証、証人物江利文の証言により真正に成立したものと認められる乙第二〇号証、同証言及び弁論の全趣旨によれば、一審原告の公表帳簿には、昭和四四年九月一八日から昭和四五年八月三一日までの間(一審原告の四五事業年度内)の勘定項目として、一審原告代表者笠井麗資からの借入金勘定が設けられていること、同公表帳簿によれば、一審原告は、同年度中に、一審原告代表者個人から受入回数二三回、手形枚数一一七枚、額面金額合計一億〇一一二万四一八一円の手形による借入れをしたことが記帳されていることが認められる。もつとも、右各証拠によつても、右手形の振出人、振出時期、支払時期等の具体的な内容は明確ではないし、その他にもこれを明確にするに足りる証拠はない。そこで、一審原告の一審原告代表者からの右手形による借入金勘定の性質が問題となるところ、証人物江利文の証言によると、四谷税務署部係官が昭和四八年二月ころ一審原告の税務調査に赴いた際、一審原告代表者は、右係官に対し、右借入金の発生原因につき「今は説明できない、今はどうしても言えない」などと述べるのみで、何ら明確な説明をしようとせず、これを明らかにする資料等の提出もしなかつたことが認められる。また、一審原告代表者は、本件訴訟における代表者尋問においても、同人は当時個人としての資産は有していないが、ただ、同人が個人として他から借り入れた手形を一審原告に貸し付けたものであると抽象的に供述するのみで、その具体的な内容(借入先、貸付理由、返済の有無、その時期等)についてはいつさい明らかにしていない。
しかしながら、一審原告代表者は、一審原告との間の右手形の授受については、自ら直接経験したことであるから、その発生原因、内容等は比較的容易に明確になしうる筈であり、また、右手形が一審原告による石油製品の販売ないしそれに附随する商取引等に伴つて取得した手形であつたとすれば、そのことを明確にすることは、本件訴訟の遂行の上、一審原告に有利であるにもかかわらず、現時点まで、一審原告代表者がその点を何ら明確にしようとしない態度は不自然かつ不合理であつて、同人の右供述は信用することができないといわざるを得ない。そして、このほか、前記認定のとおり、一審原告は、昭和四四年九月一日に目黒三洋から本件各当座預金の譲渡を受けたとして、これを一審原告の資産勘定に計上したが、その際、これに対応する帳簿処理として、同金額を一審原告代表者からの借入金として計上していること、一審原告自身も目黒三洋名義の本件各当座預金等を利用して本件手形割引等の金融取引をしていること等の事情を総合勘案して判断すると、前記の手形は、一審原告が一審原告代表者から借り受けたものであるというよりも、むしろ、一審原告自身が行つた簿外の手形割引等の金融取引によつて取得したものであると推認せざるを得ない。
もつとも、成立に争いのない甲第八号証の一、証人物江利文の証言、一審原告代表者尋問の結果によれば、一審原告は、四五事業年度には金融取引のほか、ガソリンスタンドをも経営し、石油製品の販売をも行つていたことが認められるけれども、前記の一審原告代表者の弁明態度は、右手形が、右石油製品の販売もしくはこれに付随する商取引により取得した手形であることの可能性を否定するに十分であり、その他に前記の推認を覆すに足りる証拠はない。
以上の次第であるから、右一億〇一一二万四一八一円も一審原告の簿外の手形割引等による貸付金と認めるのが相当であるる
(3) 右(1)及び(2)によれば、一審原告の四五事業年度における本件手形割引等に係る貸付金総額は、右(1)及び(2)の合計金二億五五九九万〇八九八円となる。
(二) 受取利息、割引料
右(一)(3)記載の貸付金総額二億五五九九万〇八九八円に第五の一2(二)記載の平均収益率八・七五パーセントを乗じた二二三九万九二〇三円が、一審原告の四五事業年度における本件手形割引等に係る受取利息、割引料であると推計することができる。」
6 原判決七四丁裏四行目の「一三五五万〇八三七円」を「二二三九万九二〇三円」と、同五行目の「四六〇万六九一七円」を「一三四五万五二八三円」とそれぞれ改める。
7 原判決七四丁裏七行目から同八行目にかけての「所得金額四六〇万六九一七円」から同一〇行目の末尾までを「所得金額一三四五万五二八三円は、本件四五事業年度更正における所得金額一一六五万一一五三円を上回り、したがつて、一審原告の四五事業年度における税額は本件四五事業年度更正のそれを上回ると認められるから、本件四五事業年度更正は適法である。
また、本件四五事業年度の法人税につき、国税通則法六五条一項に基づき一審原告が納付すべき過少申告加算税の税額は、実際に賦課決定された過少申告加算税のそれを上回ることが明らかであるから、右過少申告加算税賦課決定も適法である。」と改める。
二 以上によれば、一審原告の本訴請求は、いずれも理由がないから、これらをすべて棄却すべきである。したがつて、一審被告の本件控訴は理由があるから、原判決中、一審被告敗訴の部分を取り消して、右取消しに係る一審原告の請求を棄却すべきであり、一審原告の本件控訴は理由がないから、これを棄却すべきである。よつて、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 奥村長生 裁判官 前島勝三 裁判官牧野利秋は、転補のため、署名捺印することができない。裁判長裁判官 奥村長生)